悠冴紀2018年9月14日詩『黒い雨』空が泣いている 深く深く 傷を負った空が 黒い涙を頭上から散らし 夜の大地に染みていく 雨が降る 見える者にのみ見える泥づいた黒さで 鋭い雨が降りしきる 警告のように 罰のように 汚れた大地を打ち付けて 何が空を切り裂いたのか 昨日の不実か 明日の残酷さか……
悠冴紀2018年6月15日詩『真 実』真実とは ただそこにあるもの 誰も守りはしないし 誰の味方もしない そう 先人たちの言葉通り 真実とは残酷なもの だが知りたくなかったとは思わない それらは明日の礎になる いつでも私に知恵をくれた 人間の判断を狂わせるのは 期待通りの優しい嘘 想定外の残酷な真実は...
悠冴紀2018年5月4日詩『No Home』家族はいない 二度といらない 母とは大地 父とは大気 私にはそれで充分だ 帰るべき生家はない なくていい すべてを宿しながら 何者をも囲わない 無限の宇宙 里と呼ぶに相応しい 唯一の場 皆はじめから そこにいたのだ 影は智 光は力……
悠冴紀2018年4月2日詩『γρύψ(グリュプス)』ありがとう さようなら 今おもむろに この大地を離れ いつかのように羽ばたいていくから どうか皆 私を手放して あの懐かしい アッシュブルーの空 何者をも囲わない 私なりの故郷へ 記憶とともに 解き放って―― 誰かを受け入れる腕ばかりが成長し いつの間にか 翼が退化してしま
悠冴紀2017年12月15日詩『氷の道標』蒼白い雪を被った鋭い針葉樹林を 私は手探りで駆けていく どこから来たのか どこに向かっていたのか 時折わからなくなる自分がいる 今はそれでも 走るほかない 凍てついた樹海の奥から 狼の遠吠えが聞こえてくる あれは血に飢えた冬の捕食者 かつての私に 似た奴らだ 目印もない