ユグドラシルの根に湧くミーミルの泉に ゆらりと蒼白い月明かりが浮かぶ 君は私の月だった 君の言葉と視線は 私を映し出す水鏡 誰もに見放され厭われていた私とは違い 君は輝かしい前途を期待された才ある者 何故こんな私が残り 君のような人が去らねばならなかったのか… かつて私は 君を目指して走っていた 君の背中だけを一心に見つめ 君の賞賛を何よりもの励みとし いつまでも追いかけていたかった 私が君を 喰い尽くしたのだろうか… 君が月なら 私は天狼 神々が殺し合った森を眼下に 天狼は太陽と月を喰らい この世の終わりをもたらすという 君は天上に浮かぶ蒼白い月 仄冷たい明かりを夜のしじまに漂わせ 凛として水面を照らしていた 君のようになりたくて 君から何かを吸収したくて 私はずっと 君を追いかけていた だが私は天狼 生まれながらの闇の捕食者 君を慕い 近づきすぎて ついには君を呑み込んでしまった 漆黒の夜が空を支配し 世界が最後の光を失った 君の輝きに酔った私が 獣の自覚をなくしたせいだ 私は天狼 月を崇拝するあまり 月を喰らって独りになった
※2013年7月作。 この作品は、北欧神話の要素を散りばめながら、私と幼馴染の親友との関係を描写した一作です。その親友とは・・・・・・、そう、またしても例の親友Sのことです。(⇒ 同じ親友Sのことを書いた他の作品はこちら:「氷の道標」「君に贈るもの」「蛹」「蝶」「Sphinx」「幽霊」) 冒頭にある「ユグドラシル」というのは、北神において3本の根を持つ世界樹のことで、各々の根本には泉が湧いているとされている。そのうちの一つミーミルの泉は、最高神オーディンの相談役だった賢者の神、巨人のミーミルが守る知恵の泉であり、その水を飲めば霊感を得て非常に高い知恵や知識が身につくと言われていた。3つの泉の中でも、私があえてこの泉を選んだのは、親友Sがミーミルのように非常~に高い知性の持ち主であり、私に多くの知識を与えてくれた良き相談役だったからです。 本作のタイトルにあるハティというのは、同じ北欧神話に登場してくる天狼の名前です。太陽を追いかけるスコルという天狼に対し、ハティは絶えず月を追っていて、神々が激戦の果てに滅びていく世界の終焉ラグナロクの際、ついには月に追いつき、月蝕をもたらすのだという。同時にスコルも太陽に追いついて呑み込んでしまうため、日蝕や月蝕が不吉で禍々しい事柄と見なされていた古の時代には、天狼は災害の元凶として畏れられていました。 ちなみに、前に書いた作品「蛹」や「蝶」では、臆病なほどに慎重で自分の殻から外に出ていけない親友Sのネガティブな側面に焦点を当てていましたが、本作では逆に、月を通して同じ親友の魅力的な側面、他の大勢とは一線を画す品格や教養の高さ、冷静沈着で凛とした側面を表現しています。 私が最初にその存在を知った頃、彼女はとても私や他の同級生たちと同じ歳頃の子供だとは思えないほど、知的で礼儀正しく大人びた落ち着きがあり、異彩を放っていました。書道では毎回特賞を取り、絵を描かせれば正確無比な筆づかいで写真のように見事な写生をし、成績は常にトップクラス。当時(小学生時代ですが)勉強嫌いの荒くれ者で、いわゆる落ちこぼれの一人だった私(← 不良とは違うが単独暴走型の喧嘩っぱやいトラブルメーカーで、将来サイコ野郎に成長していても不思議のない猟奇的な幼児だった:恥)には、世界の異なる憧れの人、という印象でした。 ただ彼女は、昔から病気がちなため運動はからっきし苦手で、そういう点でも、かつて病気知らずの怪力女で 運動神経だけは野生動物並みに良かった私とは、対照的でした A^_^;) また彼女は、その感性が年齢不相応に成熟しすぎていたせいか、周りに馴染めず孤立しがちでした。ただし、他ならぬ本人が好んで独りになりたがっているところもあり、あえてどこかのグループや輪に仲間入りさせてもらいたがっている素振りは、一切ありませんでした。注目されるのも好しとせず、常に一歩下がった立ち位置で陰に身を置き、大勢の後ろから静かに状況を見極めようとするような人でした。 そんな諸々の気質に加えて、人に指図をしたり先導したりする立場にも向かないタイプだったので、優等生の割には意外と(?)クラス委員長や議長・班長などといった立場には選出されない人でもありました。感情を表に出さず、私と二人きりのとき以外は言葉数も少ない人だったので、きっと同年代の他の子供たちには、掴みどころのない謎な存在と映っていたのでしょうね A~_~;)
対する私はというと、これまた見事に合わせ鏡のように対照的なことに、何故だか度々委員長やら班長やら議長やらといった立場に選ばれてしまう方でした。これはあくまで中学生以降の話なのですが、親友との出会いで切実に変わりたいと望み、「この人に恥じない自分になろう」という意識であれこれ努力しまくった結果、短期間で成績や態度がガラッと変わり、別人のように生まれ変わった私に、意外にも周りの人たち(👈㊟家族以外)が驚くほど素直にその変化を受けとめ、応えきれないほどの期待を寄せるようになっていたのです(・_・;) 私自身は内心、「皆何か勘違いしてない? いくら今はかつての私と別人のように見えるとは言え、現実には、私がほんの少し前まで人々に忌み嫌われていたあの問題児と同一人物なんだってこと、忘れてない? なんで私なんぞに???(-"-;)」と頭を痛めたものでした。人前に立つことや、変に期待されて責任ある立場に追いやられるようなことは、私も親友Sと同じくらい苦手で、本気で心底イヤだったので、どうにか面倒な役目を負わされずに済むよう、陰へ陰へと隠れているつもりだったので、私に投票した人たちの思いは、今振り返っても理解に苦しみます 💦 「私はそういう立場には向かない個人主義者です。選ばれても責任を果たしませんので、私には絶対に投票しないでください」と、前代未聞の宣言放棄発言をしたにも拘わらずクラス委員長に選ばれてしまった、という珍事すらあったくらい……(-"-;)
── まあ、そんなこんなで、何から何まで見事に対照的で、お互いに自分にはないものを持っていた凸凹コンビの二人でした (;^_^A
って、いつの間にか作品から遠く離れた話になってしまいました、スミマセン m(_ _)m)
**************** 💡 そうそう、ついでにもう一つ余談ですが、 実は私、20代前半のときに、問題の天狼ハティの名を登場人物の一人につけて、『風の住処(かぜのすみか)』という小説を書き上げたのですが、当時は色々あって自分に自信が持てなくなっていた上に、執筆スランプの中で苦しみながら書いた一作だったため、いまいち自分本来の持ち味を出せず、お蔵入りさせる結果となってしまいました (;一_一) 内容は、こんな感じ ⇒ 掏りや空き巣をして食いつないできたものの、決して凶悪な部類とは言えない青年が、あるお店で、万引き犯の自分を捕まえようと襲いかかってきた店主を誤って死なせてしまい、逃亡犯として追われる身になる。途中、彼が逃亡資金を調達しに入った外れの民家で偶然出くわしたのが、自分の名前も知らない謎の被虐待児童。青年に拾われ『ハティ』という呼称まで得た女の子は、しばし一緒に逃亡生活を送ることに。しかしその名の通り、北欧神話の狼のような気性の荒さを秘めていたハティは、その後色々あって、成り行き上、逃亡犯である青年を追ってきたバウンティ・ハンターの男性のところに転がりこむことになり、居候生活の日々が始まるのだが・・・・・・。 と、こんな感じで、ちょいとキナ臭いサスペンス要素を含んだ作品でした。外郭はいかにも当時の私が思い付きそうな、映画のように起伏に富んだストーリーだったのですが、他ならぬ私自身が魂の抜け殻のような状態にあったため、当然その作品も覇気のない仕上がりとなり、不世出の失敗作に終わったのでしたw 年月が経ちすぎたし、今は他にいくつか手掛けたい作品や執筆途中の新作が控えているので、残念ながらこの幻の過去作品を手直しして復活させる予定は、今のところありません。なので、同じ北欧神話の「ハティ」をモチーフにしたこの詩の公開を機に、ふと懐かしくなってあらましだけを書いてみました m(_ _)m
注)私の作品を一部でも引用・転載する場合は、必ず『悠冴紀作』と明記してください。 自分の作品であるかのように公開するのは、著作権の侵害に当たりますm(__)m