深すぎる傷跡 凍てつく大地に刻み込まれた 底知れぬ裂け目 こんなにも深部に達していながら もはや血も出ないほど時を刻んだのか…… 遠い記憶に実感はなく ただただ知識として残るばかり だがそれが今ではコアを成す 地中に食い込む 深いクレバス 血は凍結して色素をなくし もはや涙も出てこない 癒えたわけではない 傷は今も大きく開いたまま 雪解けを知らぬ冷徹さで むしろ克明に形を留める なんという皮肉だろうか 壮絶な記憶と共にあった私の『実感』もまた そこに封じ込められ 眠っているのだ 泣き方すら忘れた心の大地に 年季の入った硬い古傷 私から喜怒哀楽を奪った月日 だが不思議だ 吸い込まれそうなその裂け目は 今ではむしろ荘厳として 未知へと開かれた城門のよう 刻んだ月日の痛みだけを削ぎ落とし 傷はあえて残されたのだ 冷たく透き通る 巨大なクレバス 鋭く深い アイスブルー 氷の大地をざっくりと裂き 明日への手掛かりを諭し続けるだろう
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※2013年11月作。 大学時代に行ったカナダ旅行で、初めて間近にクレバスを見たときのことを思い出して作った詩です。当時にはなかった今現在の私ならではの状況・心境を重ね合わせて、記憶のクレバスを文学的にアレンジした、というところでしょうか。 ニヒルでシビアだけど、自己憐憫やマイナス思考といった単なる「暗さ」とは違う、この手のヒヤリとした質感のある鋭い作風。いかにも私らしい作品の一つですよね♪ 大気が澄んで身の引き締まる冬になると、こういう言葉が次々浮かぶので、私の創作活動には最適な季節だと思っています。
注)この作品を一部でも引用・転載する場合は、必ず「悠冴紀作『クレバス』より」と明記してください。
自分の作品であるかのように公開するのは、著作権の侵害に当たりますm(__)m
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