人類の繁栄と 夢の果て 止め処ない人口爆発とグローバル化 広がるところまで広がれば いずれ自壊して収縮の時を迎える
目に見えていたはずのこと これはいわゆる揺り戻しだ よもやこんな形でとは知り得なかったが 予感と覚悟は常にあった これ以上はないところまで伸びきった末 文字通りに弾けてしまったのだ
これもおそらく
自然現象の一つ
ヒト科の動物『ヒト』が猛威をふるい 汚染し続けてきた この星にとって 我々は皆 癌化した細胞のようなもの 母なる地球がその母体を守るため この世界のバランスを取り戻すため ついに動き出したのだとしか思えない どんな弊害を招くか
すべきか否か…… ヒトは都合の悪い問いを意図的に排除し 技術上の可能性だけを追究し続けてきた
その無節操を進化への近道と信じ 玩具で遊ぶ子供のように
方法論だけに執着して
今が良ければそれでよし 楽しければそれでよし 誰にも未来など知り得ないのなら あれこれ考えるだけ無駄なこと
そんな思考放棄の果てが 今だ
我々は試されているのではない
一斉駆除の対象と見なされたのだ
かつて人類が 駆除・絶滅させた生物たち ついに我々自身の番が来た おそらくそういうことだ
見えない敵に狩られていく あまりにも小さな 姿なき刺客 送り込んだのは 母なる地球
野生の本能をとうに失くした人類にとって 事の是非を自問する思考能力だけが こうならないための盾だった
我々は自ら選んだのだ
無意識に 無責任に
絶滅のリスクを高める道を
私には今 そう思えてならない
ヒト科のヒトも この地球上に棲息する動物の一種 人間界も自然界も 同じ大自然の一部 上から目線で切り離しては考えられない そんなことは承知していた はじめから
だからこそ こうなったと 私は言うのだ
人間が生き延びるために 癌化した我が身の一部を切除するように この星もまた 我々を除去しようとしているのだろう 循環し続けるものを命と呼ぶのなら 地球という天体もまた
一つの巨大な生命体
元はその細胞の一部だった我々が 脅威の異物に成り果てたから 戻ろうとしているのだ 元の健康な体へと 地球も足掻く 失われた何かを取り戻すため 自らの生存と正常化のために 我々も足掻く 一日でも長く生き延びるため 元の秩序を取り戻すために 互いに それぞれ 死に物狂い 確かに これは戦争だ 狭義には病との戦い 広義には 皮肉にも 我々に生を与えたこの星との戦い 最も敵に回してはならない相手を 傲慢と強欲により敵に回したのはヒト 本来最も安心できるはずの相手を 思考停止により脅かした末路
これは一種の連環計
炎の矢が放たれたのだ
世界を一つに繋ぎ
手を取り合うことで 強く豊かになれると信じた我々の 儚く 拙い ユートピア 我々を知り尽くしている産みの親は それをディストピアに反転させた 最も効率的な方法で
またたく間に 包容力に溢れ
我々を優しく抱いた星を 我々が鬼に変えたのだ だがこの星は
尚も 優しく温かい
ヒトを除く多くの生命と自然を守るため ヒト科のヒトに対してのみ
鬼と化したのだ
そして戦争が始まった
燃えていく 片端から焼き尽くされていく 人々が望むままに築き上げてきた ヒトにとってのみ都合のいい文明社会が ほんの少し前まで当たり前だった日常は すでにない
今の我々は あまりにも不利で無力だ
火の粉を受けた目の前の一人を 命懸けで救おうと奮闘しながら 共倒れになっていく人々の悲鳴に 溢れる涙が止まらない なのに一方では 醒めた目で達観してしまう因果と理
揺り戻しだ
行き着くところまで行き着いて 偏りすぎた世界を引き戻すため ついに作動してしまったのだ この星の壮大な浄化システムが
すべてを支配しているつもりでいた人類を 嘲笑うかのような 見事な連環計
勝敗はすでに出ている ヒト科のヒトの完敗だ
だがまだ生きている 生き残っている
そこが何よりも重要な点
母なる地球の目的は 殲滅(せんめつ)ではない 自身の正常化とバランスの回復 あくまで それだけだ
その証拠に 我々に活動させないことで 我々の無毒化・無害化に成功しつつある
我々が今 目指すべきは 勝利ではなく生存
火の粉を直に受けなくても 循環を妨げられれば いずれ滅びる 我々が鬼にした敵ならぬ者が ある程度目的を果たして鎮まる日まで ただひたすらに 模索するほかない
反転した秩序の中
細々と動き出し 今度ばかりは節度ある循環の仕方で 尚もしぶとく生き延びる道を
ただひたすらに──
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※ 2020年3月の作品
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